研究紹介
Research

腫瘍研究グループ

腫瘍研究グループ

班の方針

頭頸部という領域は、呼吸・嚥下・発声という非常に重要な機能を有しています。また、解剖学的に重要血管や神経が密接し、鼻腔・咽喉頭・各種間隙など3次元的に複雑な構造を持っています。それらを熟知し、機能や形態、患者さんのQOLを維持しながら根治を目指すことが頭頸部癌治療における使命です。我々は内視鏡やロボット支援下による低侵襲手術から拡大手術まで、あらゆる選択肢の中から患者さんに最適な治療を提案できると自負しています。また研究面では腫瘍の転移や治療抵抗性獲得の機序の解析、希少腫瘍についての研究などを行っており、頻度の少ない頭頸部腫瘍のデータをより多く蓄積するために慶應の関連病院の先生方と協力し、多施設共同研究にも取り組んでいます。

経鼻内視鏡下頭蓋底手術

頭蓋底領域の疾患に対しては、脳神経外科と合同で経鼻内視鏡下頭蓋底手術を積極的に行っています。
当院には頭蓋底センターが設立されており、他診療科(形成外科・眼科・歯科口腔外科・腎臓内分泌代謝内科・放射線科)と密に連携をとっています。各専門科の高度な技術と豊富な経験を集結させ、高難度症例に対しても安全で質の高い治療を提供しています。

脳神経外科と合同での経鼻内視鏡下頭蓋底手術

経口的ロボット支援手術

咽頭癌に対する低侵襲手術として、経口的切除術という術式があります。その内の内視鏡を用いたTOVS, ELPSといった手術は早期咽頭癌に対する標準治療となっています。外切開手術と比較して、頸部に創(きず)が残らないことはもちろん、術後の早期回復や入院期間の短縮、嚥下や発声・構音などの機能温存にも大きなメリットがある治療です。
経口的切除術の1つであるロボット支援下に行うTransoral Robotic Surgery (TORS)が、本邦で2022年4月に保険収載されました。当科でも昨年より導入し、咽頭癌に対するロボット手術を行っています。
現在、咽頭癌に対して本邦で使用が認められているda Vinciは、3本のアームを用い、カメラと2本の鉗子を使って手術を行います。人間の手よりも広い可動域を持った鉗子が、狭く入り組んだ術野でも精密な動きを再現します。内視鏡を使用した手術と比較して、病変を明視下に置きやすい、カメラと鉗子の干渉が少ない、カメラと鉗子の操作をいずれも術者が行うため、スムーズな手術操作が可能となるなどの利点があります。

実際の手術風景。右上に映し出されるモニターで助手や看護師などと状況を共有し、手術を進めます。

耳下腺手術におけるMRIでの顔面神経描出と3Dモデル作成

耳下腺良性腫瘍手術における重要な合併症の一つに顔面神経麻痺があります。
顔面神経麻痺のリスクを軽減するために、術前にMRI画像から顔面神経と腫瘍を描出した3Dモデルを作成し、それを用いてシミュレーションを行っています。顔面神経と腫瘍との位置関係を十分に評価してから手術に臨むことで、安全かつ確実な腫瘍摘出を実践しています。

MRIでのFIESTA-C法による顔面神経描出と3Dモデルの作成

ハンズオンセミナー

当教室では縫合や気管切開のハンズオンセミナーを行っています。
専攻医の先生はもちろん、初期研修医の先生にも参加いただいています。
手技に自信がなくても心配ありません。入局後にしっかりと指導します。

縫合実習の様子

頸動脈小体腫瘍に関する基礎研究

腫瘍研究班では、頸動脈小体腫瘍の遺伝学的検査やタンパク発現を解析することで、その発症や進行に関わる病態の解明を目指した研究を行っています。
頸動脈小体腫瘍は、頸部に発症するまれな腫瘍です。根治する方法は手術になりますが、大量出血・脳梗塞・神経障害などのリスクが伴います。薬物治療や放射線治療などの効果は限定的で、今後は新規治療の開発が必要であり、その糸口となる新たな病態の解明が待たれています。頸動脈小体腫瘍は遺伝性腫瘍としても知られており、その約10%は常染色体顕性遺伝であるとされています。その発症には、コハク酸脱水素酵素のサブユニットタンパク発現に必要な遺伝子をはじめ、いくつかの遺伝子の変異が関与するとされています。
私たちは、頸動脈小体腫瘍患者から採取したDNAの解析を行う事で、その原因遺伝子の検討を行っています。当院で研究に同意された患者30名の遺伝学的検査の結果、15名(50%)に原因とみられる病的な変化が検出されました。さらに、手術で摘出した病理組織検体に対して、免疫組織化学を用いたタンパク発現の解析を併せて行ったところ、前述した遺伝子変異を発症の原因とする腫瘍がある一方、その他の発症原因の存在を示す腫瘍もあることがわかりました。
今後もCBTの血液由来DNAや腫瘍検体の解析を続けることで、頸動脈小体腫瘍の正確な診断や遺伝カウンセリングに役立てる事ができます。また現時点では病気との関係が不明と判断されたDNAバリアントについても、新たにCBT発症や進展との関連について判明する可能性があります。

SDHB免疫組織化学を用いた
タンパク発現評価

頭頸部オルガノイドを用いた研究

頭頸部疾患の患者由来オルガノイドの樹立・培養を行っており、実際の症例の特徴を反映した実験モデルを用いた疾患の原因解明や新規治療開発を目指しています。さらに、未だ細胞株などの疾患モデルが存在しない希少癌の疾患モデル開発にも取り組んでいます。

頭頸部癌細胞株や手術標本・マウスを用いた基礎研究

その他にも腫瘍研究班に所属する助教・大学院生は各々研究テーマを持ち基礎研究を行っています。
専門班を決めるまで基礎研究に触れたことのない場合がほとんどですが、初学者でも一から教えてもらえる環境が整っています。
他の研究室との共同研究も盛んに行っています。

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