研究紹介
Research

腫瘍研究グループ

腫瘍研究グループ

基礎研究
「頸動脈小体腫瘍の発症、腫瘍進展に関わる遺伝子・タンパク発現についての検討」

研究担当者
小澤宏之、吉浜圭祐
学外共同研究者
松永 達雄(東京医療センター臨床遺伝センター長)

頸動脈小体腫瘍は頸動脈分岐部に発生する腫瘍で、病理組織学的には傍神経節腫(Paraganglioma)です。その約10%は家族性にみられることが知られています(Uenlue, Ann Vasc Surg 2009)。2017年のWHO分類で悪性腫瘍に分類されました。血流豊富で易出血性であり、増大とともに頸動脈を取り囲むように進展します。根治治療としては手術による摘出が第一選択ですが、動脈壁や周囲の神経に浸潤することがあるため、手術には大量出血・頸動脈損傷に由来する脳梗塞・脳神経障害などのリスクが伴います。
約5%でリンパ節・肺・肝臓・骨などへ転移を認めます。転移を来した症例では5年生存率は50%と予後不良です。頸動脈小体腫瘍の過去の検討は乏しく、今後の検討が待たれる状況です。近年、SDHD, SDHBといった幾つかの遺伝子の変異が、遺伝性傍神経節腫の原因として報告されています。特にSDHB遺伝子変異を伴う傍神経節腫では悪性化率が高いという報告があります(表1)。

表1 傍神経節腫の原因遺伝

症候群名 VHL PGL1 PGL2 PGL3 PGL4 TMEM127
遺伝形式 AD AD AD AD AD AD
遺伝子名 VHL SDHD SDHAF2 SDHC SDHB TMEM127
発症年齢 22(5-67) 27(5-65) Unknown Unknown 34(12-66) 43(34-55)
頭頸部病変発生率 0.5 41 73-86 100 8 1-2
多発例% 56 55 0 9 11 33
悪性例% 4 0 0 0 32 5

※ Offergeld C, et al: Head and neck paragangliomas: clinical and molecular genetic classification. CLINICS, 67: 19-28, 2012より転載。

我々は、頸動脈小体腫瘍の原因となる遺伝子変異について明らかにすると共に、臨床情報と手術検体中のタンパク発現を検討することで、その発症・経過・転移に関する病態解明を目的として研究を行っています。
この研究の成果は、頸動脈小体腫瘍の早期発見・早期治療に寄与できると考えています。さらに、頸動脈小体腫瘍の遺伝子診療が実用化できれば、正確な診断・予後の予測・随伴症状の予測・治療法の選択に役立ちます。
さらに、頸動脈小体腫瘍の増殖や悪性化のメカニズムを解明することにより、今まで手術以外の治療法が取りづらかった頸動脈小体腫瘍の患者さんに対して選択できる、新規薬剤の開発に応用できる可能性があります。

研究工程フローチャート

flow-chart

臨床研究

当院で治療を受けられた患者様の治療経過や組織標本を使用して、下記のような臨床研究を行っています。これらの研究は全て慶應大学医学部倫理委員会の承認を受けています。
頭頸部がんはそもそも症例数が少ない疾患であり、世界的にも蓄積されたデータは十分ではありません。我々は下記のような臨床研究を通して、頭頸部がんの病態解明や、予後の改善につながるような治療選択を導けるよう日々研究に励んでおります。

  • 頭頸部癌病理組織標本を用いた臨床病理学的検討による転移、治療効果および予後の予測因子の解明
  • 日本における頭頸部悪性腫瘍登録事業の実施
  • 頭頸部がん診療に関する多施設共同研究
  • 頭頸部疾患の診療に関する他施設共同研究
  • 唾液腺導管癌に対する多施設共同による臨床的・病理学的検討
  • 頭蓋底腫瘍の診療に関する研究

ページトップへ戻る